今月23日から企画展「下瀬信雄展」が始まる。萩市在住の写真家の大規模な個展だ。同時に始まるコレクション展でも写真家、牛腸茂雄の「SELF AND OTHERS」60点が展示される。ふたりの作品を通して、存分に写真の魅力に触れていただきたいと思う。
牛腸の60点の写真は、1970年代前半に撮影されたものだ。そのころ10代半ばだった私のまわりにも、被写体となったような子どもや大人がたくさんいた。子どもの遊びは自分たちのと同じだったし、大人を見れば、自分もあんなふうになるんだなと思っていた。
写された一人一人は、牛腸のカメラを通して、今、写真を見ている私と真正面から向かい合っている。彼や彼女たちの視線を受け止めながら、私の表情も微妙に変化しているだろう。
視線の交錯が生み出す切迫するような一瞬の実感―この感覚があるから、時間を超えて、私も彼や彼女たちと同じ世界に立っているように感じられるのだと思う。
山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫